福岡 伸一Shin-Ichi Fukuoka

福岡 伸一
生物学者
青山学院大学 総合文化政策学部 教授
ロックフェラー大学 客員教授
専門分野キーワード
動的平衡、生命論、西田哲学、膵臓外分泌系、分泌経路、アミノ酸代謝

講演テーマTitle of Presentation

「生命とは何か? それは動的平衡」

動的平衡の生命観

生命とは何か? 人類がずっと考え続けてきたこの問いに、現在、生物学は何と答えることができるだろうか。20世紀の中盤、DNAの二重らせん構造が解明された。相補的な構造を持つDNAの鎖が、互いに他を鏡に映す対応関係で存在していることは、そのまま遺伝情報の複製と伝達を示唆するものだった。その結果、これ以降の生物学は、生命を「自己複製するシステム」と定義した。しかしもうひとつパラダイムがあった。この発見に先立つこと10年ほど前、物理学者のエルウィン・シュレディンガーは自著『生命とは何か』の中で、高度な秩序を保つ生命が、生命として存在するためには、システムの内部に蓄積されるエントロピーを常に捨て続ける特別の仕組みが必要であると考えた。この視点から生命を定義できるはずだったが、さすがのシュレディンガーも、特別な仕組みがどのようなものであるかを言い当てることはできなかった。

シュレディンガーの著書に先立つこと、さらに10年ほどまえ、ドイツから米国に亡命してきた生化学者ルドルフ・シェーンハイマーは画期的なアイデアを思いついた。同位体元素で栄養素を標識すれば、生体内部の代謝を可視化できるかもしれないと。実験結果は驚くべきものだった。生体のあらゆる構成要素は絶え間のない分解と合成の最中にあり、栄養素の構成要素と常時交換されている。栄養素は単なる燃料ではない。生命は流れの中にあることをシェーンハイマーは明らかにした。彼はこれを生命の”dynamic state" と呼んだ。日本語では「動的平衡」(dynamic equilibrium) と言うのがよいと思う。ここでは、新たな合成のために、先回りするかのごとく分解が絶えず行われてバランス(平衡)が保たれているからである。また積極的な分解は、シュレディンガーが予言した、エントロピーを排出する特別の仕組みでもある。この予言を具現化するかのように、20世紀後半から21世紀にかけての生物学は、生命がつくることよりも、自らを壊すことを一生懸命に行っている様子を次々と明らかにした。ユビキチン系、プロテアソーム、そしてオートファジーの研究はすべて、シェーンハイマー/シュレディンガーの流れをくむもうひとつのパラダイム=動的平衡の生命観の上に位置づけることができる。生命とは何か、と問われれば、それは動的平衡である、と答えることができるのである。

プロフィールProfile

ホームページ URL
https://shinichi-fukuoka.themedia.jp/
簡単な履歴

生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学 客員教授。サントリー学芸賞を受賞し、80万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)など、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。ほかに『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書)、『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『変わらないために変わり続ける』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)など。対談集に『動的平衡ダイアローグ』(木楽舎)『センス・オブ・ワンダーを探して』(だいわ文庫)、翻訳に『ドリトル先生航海記』(新潮社)『生命に部分はない』(講談社現代新書)などがある。近刊に『新版 動的平衡』(小学館新書)、『福岡伸一、西田哲学を読む―生命をめぐる思索の旅 動的平衡と絶対矛盾的自己同一』(明石書店)。6年ぶりのシリーズ最新刊『動的平衡3』(木楽舎)を2017年12月に刊行。

また、大のフェルメール好きとしても知られ、世界中に散らばるフェルメールの全作品を巡った旅の紀行『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、朽木ゆり子氏との共著『深読みフェルメール』(朝日新書)を上梓。最新のデジタル印刷技術によってリ・クリエイト(再創造)したフェルメール全作品を展示する「フェルメール・センター銀座」の監修および、館長もつとめた。

2015年11月からは、読書のあり方を問い直す「福岡伸一の知恵の学校」をスタートさせ、校長をつとめている。

主な受賞・栄誉等
主な論文・著作等

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