講演テーマTitle of Presentation
「フォトニック集積回路 -インターネットとライフサイエンスの飛躍的発展に向けて-」
フォトニック集積回路(PIC)は過去15年の間に著しく重要性を増し、今や施設での研究から製造工場へとその場を移している。従来、PICは、ガラスなどの多様な素材やリン化インジウムのようなIII-V族半導体を含め、あらゆる材料で製造されてきたが、過去15年の間に光ICのための「新しい」材料システムが出現した。それが、電子ICに使用されている主力材料のシリコンである。これまで、シリコンはフォトニクス材料としてはあまり関心を持たれてこなかった。ところが、状況は劇的に変化しており、今日、シリコンベースのPICは、多様なアプリケーションに対する最も汎用性の高い技術プラットフォームとして急激に成長しつつある。
物理的な観点から言えば、シリコンフォトニクスの大きな強みは、屈折率差の大きい(シリカの1.45に対して、シリコンでは3.5)光導波路素子を使用しているという点にある。この屈折率差の高さが、光の一つの(シリコン)波長への閉じ込めのほか、超小型素子(ベンド、フィルタ、スプリッタ、偏光コンバータ)や過去に例のないQ/Vを持つ微小共振器の作製、著しいパーセル増強効果の活用、フォトニック結晶構造や低速波構造の実装、ナノメートルレベルへの形状調整による導波管の分散特性の作出、波長以下の構造をベースとするメタマテリアルの創造、周波数コム発生などへのシリコンの強力なカー効果の活用を実現してきたのである。このため、研究領域ではかなり「豊富」な研究業績が蓄積されており、シリコンの光学チップを用いて多様な物理的現象が実証されている。この中には、他の技術では不可能な方法で実証されているケースもある。
これらはいずれも、成熟したCMOSファブの技術的環境がなければ生まれなかった成果である。200mmあるいは300mmウェハ上での193mm深紫外線リソグラフィに依拠するこれらのファブのパターン形成能力があってこそ、100nmをはるかに下回る最小加工寸法、100nmレベルの周期構造での最小ピッチ、数nmレベルの形状精度を持つ構造の作製が実現する。これこそまさに、質と再現性に優れ、シリコンが透明になる「通信波長帯」(1.3μmおよび1.55μm)で動作する高屈折率差のナノフォトニクス素子の実装には欠かせないものなのである。
しかしながら、シリコンフォトニクスを主に牽引してきたのは、アプリケーションサイドのニーズである。インターネットの急激な成長は、データの密集する基盤上での短距離相互接続に使用できる、低コストかつ低専有面積の広帯域光送受信器への大きなニーズを生み出した。25Gb/s、場合によっては40Gb/sのデータレートに対応する光変調器や検出器を実装でき、しかも先進CMOSファブの持つ標準的な工程ツールを用いて実装が可能なシリコンフォトニクスにとって、これこそまさに他に秀でることのできる領域である。確かに、現時点では、ウェハスケールの製造工程による送受信器用PICへのレーザーの集積は実現していない。しかしながら、様々な複合技術が存在するほか、部分的にではあるが、III-V族半導体ベースのレーザーダイオードをシリコンPICに集積できるウェハスケールのアプローチも開発されている。さらに、これらの集積を実現する真にモノリシックなアプローチにも、今後に有望な科学的進展が確認されているのである。
システムを構成しているのはフォトニックチップだけではない。チップは他の機能、特に電子機能とパッケージングし、集積しなければならない。また、シリコンフォトニックICが一層複雑化していることから、階層設計ツールに対するニーズも高まっている。過去数年の間に、これらの「補助的な」手法のための一連の機能やツールが業界を大きく勢いづかせてきた。成熟するにつれ、シリコンフォトニクスを、単にデータコムやテレコムにとどまらず、センサやバイオセンサ、生体医療機器などを含めた多様な市場に役立つ汎用技術として捉える傾向が出現し始めている。駆動要因になっているのは常に同じ。大きくてかさばる、しかも高コストの実装と同等の機能性や性能を備えた、コンパクトで低コストの集積回路を創造することである。このような傾向の例として挙げられるのが、タンパク質やDNAのような生体粒子感知用のPIC、多様な低分子(グルコース、アンモニア、食品腐敗マーカーなど)の分光光度検出用PIC、光干渉断層やレーザードップラー振動測定用PIC、ファイバ・ブラッグ・グレーティングの読み出し用PICなどである。
アプリケーションという観点から考えた場合、これら新規のアプリケーションでは、シリコンフォトニクスの「従来の」波長(1.3μmおよび1.55μm)が必ずしも最適だとは限らない。このことから、最近、CMOSファブでチップを製造できるという重要な利点からできるだけ逸れることなく、シリコンフォトニクスを他の波長領域に「移し替えよう」という傾向が生まれている。多くのグループが、より長い波長(中赤外域)に向かってシリコンフォトニクスの新たな境地を開拓しており、その大きな動機づけとなっているのが振動分光技術の活用が持つ将来性である。これと並行して、生体媒質や蛍光マーカー、ラマン分光法との両立性を高めることを目的に、より短い波長を指向しているグループもある。このケースでは、シリコン核を可視光領域で透明な材料に置き換えなければならない。その優れた候補になっているのが窒化ケイ素なのである。
プロフィールProfile
- ホームページ URL
- www.photonics.intec.ugent.be
- 簡単な履歴
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ゲント大学(UGent)教授。IMECにも関係者として参画している。UGentのフォトニクス・リサーチ・グループ、UGentのナノ・バイオフォトニクス(NBフォトニクス)センター、エラスムス・ムンドゥスのフォトニクス国際理学修士プログラム、UGent-IMECシリコンフォトニクス共同研究プログラムで管理責任者を務めている。
1980年にゲント大学で電気工学で理学修士号を、さらに1981年にはスタンフォード大学で2つ目の理学修士号を取得。1984年にはゲント大学で博士号を取得した。1984年から1989年まではポスドクとして(ゲント大学への派遣という形態により)IMECに所属し、1989年以降はゲント大学工学部で教授職を務めるかたわら、フォトニクス研究グループを設立した。1990年から1994年まではデルフト工科大学、2004年から2008年まではアイントホーフェン工科大学の教授(非常勤)も歴任している。
主として集積光部品領域の研究に従事し、半導体レーザーダイオード、導波、回折素子の研究や、III-V族半導体とシリコンの両材料によるフォトニックICの設計と製作に寄与してきた。ゲント大学では、7人の教授で構成されるチームの一員として、フォトニクス研究グループを主導している。80人の研究者を擁するこのグループは、国家規模、国際規模の数多くのプログラムに従事しており、シリコンフォトニクスに関する活動はIMECとの共同研究イニシアチブの一環である。同氏はまた、2010年に設立されたUGentのナノ・バイオフォトニクス(NBフォトニクス)学際研究センターの所長も務めている。
同氏はUGentとブリュッセル自由大学(VUB)のフォトニクス大学間理学修士プログラム、およびエラスムス・ムンドゥスのフォトニクス国際理学修士プログラムの共同創設者である。
フランダース地方政府のMathusalem研究プログラム、および欧州研究会議(ERC上級助成金)の研究費保持者であり、米国電気電子学会(IEEE)のフェローに選任されている。
同氏の研究チームからは、Trinean、Caliopa、Luceda Photonicsの3つのスピンオフ企業が創設されている。
- 主な受賞・栄誉等
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・Biennial prize “100 years Bell Telephone” (1985)
・Prize of the Royal Academy of Sciences, Literature and Arts of Belgium (1987)
・Siemens-prize (NFWO, 1992) (joint with G.Morthier and K. David)
・SCK・CEN – Prof. Roger VAN GEEN scientific prize (1997) (joint with P. Demeester and P. Van Daele)
・Honorary Professor, Dalian University of Technology, 2007
・Fellow of the IEEE (for contributions to silicon photonics and to photonic integration), 2007
・Methusalem-grant from the Flemish Government (10 Meuro for research on “Smart photonic chips”), 2007
・ERC Advanced Grant from the European Research Council (2.2 Meuro for research on spectroscopic labs-on-a-chip), 2010
・MOC-award, Japan, 2011
・Elected Member of the Royal Academy of Sciences, Literature and Arts of Belgium, 2011
- 主な論文・著作等
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・W. Bogaerts, R. Baets, P. Dumon, V. Wiaux, S. Beckx, D. Taillaert, B. Luyssaert, J. Van Campenhout, P. Bienstman, D. Van Thourhout, Nanophotonic Waveguides in Silicon‐on‐Insulator Fabricated with CMOS Technology, Journal of Lightwave Technology (invited), 23(1), p.401‐412 (2005)
・D. Taillaert, F. Van Laere, M. Ayre, W. Bogaerts, D. Van Thourhout, P. Bienstman, R. Baets, Grating Couplers for Coupling between Optical Fibers and Nanophotonic Waveguides, Japanese Journal of Applied Physics (invited), 45(8A), p.6071‐6077 (2006)
・K. De Vos, I. Bartolozzi, E. Schacht, P. Bienstman, R. Baets, Silicon‐on‐Insulator microring resonator for sensitive and label‐free biosensing, Optics Express, 15(12), p.7610‐7615 (2007)
・C. Koos, P. Vorreau, T. Vallaitis, P. Dumon, W. Bogaerts, R. Baets, B. Esembeson, I. Biaggio, T. Michinobu, F. Diederich, W. Freude, J. Leuthold, All‐optical high‐speed signal processing with silicon‐organic hybrid slot waveguides, Nature Photonics, 3(4), p.216‐219 (2009)
・J. Roels, I. De Vlaminck, L. Lagae, B. Maes, D. Van Thourhout, R. Baets, Tunable optical forces between nanophotonic waveguides, Nature Nanotechnology, 4, p.510‐513 (2009)
・L. Liu, R. Kumar, K. Huybrechts, T. Spuesens, G. Roelkens, E.‐J. Geluk, T. de Vries, P. Regreny, D. Van Thourhout, R. Baets, G. Morthier, An ultra‐small, low‐power, all‐optical flip‐flop memory on a silicon chip, Nature Photonics, 4(3), p.182‐187 (2010)
・W. Bogaerts, P. De Heyn, T. Van Vaerenbergh, K. De Vos, S. Selvaraja, T. Claes, P. Dumon, P. Bienstman, D. Van Thourhout, R. Baets, Silicon microring resonators, Lasers & Photonics Reviews, 6(1), p.47‐73 (2012)
・X. Liu, B. Kuyken, G. Roelkens, R. Baets, R. M. Osgood Jr., W. M. J. Green, Bridging the Mid‐Infrared‐to‐Telecom Gap with Silicon Nanophotonic Spectral Translation, Nature Photonics, p.667‐671 (2012)
・D. Jalas, A. Petrov, M. Eich, W. Freude, S. Fan, Z. Yu, R. Baets, M. Popovic, A. Melloni, J. Joannopoulos, M. Vanwolleghem, C. Doerr, H. Renner, What is ‐ and what is not ‐ an optical isolator, Nature Photonics (invited), 7, p.579‐582 (2013)
・G. Roelkens, U.D. Dave, A. Gassenq, N. Hattasan, C. Hu, B. Kuyken, F. Leo, A. Malik, M. Muneeb, E.M.P. Ryckeboer, S. Uvin, Z. Hens, R. Baets, Silicon‐based heterogeneous photonic integrated circuits for the mid‐infrared, Optical Materials Express (invited), 3(9), p.1523‐1536 (2013)
・S. Ghosh, S. Keyvaninia, W. Van Roy, T. Mizumoto , G. Roelkens, R. Baets, Adhesively bonded Ce:YIG/SOI integrated optical circulator, Optics Letters, 38(6), p.965-967 (2013)
・A. Dhakal, A. Subramanian, P.C. Wuytens, F. Peyskens, N. Le Thomas, R. Baets, Evanescent excitation and collection of spontaneous Raman spectra using silicon nitride nanophotonic waveguides, Optics Letters, 39(13), p.4025‐4028 (2014)
・F. Peyskens, A. Subramanian, P. Neutens, A. Dhakal, P. Van Dorpe, N. Le Thomas, R. Baets, Bright and dark plasmon resonances of nanoplasmonic antennas evanescently coupled with a silicon nitride waveguide, Optics Express, 23(3), p.3088-3101 (2015)
・B. Kuyken, T. Ideguchi, S. Holzner, M. Yan, T. W. Hänsch, J. Van Campenhout, P. Verheyen, S. Coen, F. Leo, R. Baets, G. Roelkens, N. Picque, An octave spanning mid-infrared frequency comb generated in a silicon nanophotonic wire waveguide, Nature Communications, 6(6310), (2015)
・R. Van Laer, B. Kuyken, D. Van Thourhout, R. Baets, Interaction between light and highly confined hypersound in a silicon photonic nanowire, Nature Photonics, 9(3), p.199-203 (2015)