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第3回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム2016.7.9-10
未来への窓 -バイオ・メディカルテクノロジー、数学、美術の眼を通して-(終了)

クレイグ ヴェンター
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野

クレイグ ヴェンター (J. Craig Venter)

Human Longevity, Inc.
J. Craig Venter Institute
Synthetic Genomics, Inc. 博士

専門分野キーワード
ゲノム・生命統合科学者

講演テーマTitle of Presentation

「ヒトゲノム科学と医学の未来」

1995年にヴェンター研究所のチームとともに歴史上初めてゲノム配列を決定し、その5年後には5名の個人のゲノムで構成されるヒトゲノムの最初のドラフトがセレラ・ジェノミクス社から発表された。2007年には、ヒト二倍体ゲノムの最初の完全配列をJ.クレイグ・ヴェンター研究所のチームとともに発表したが、これはヴェンター博士自身のゲノムであった。これらのゲノムは研究の開始地点として重要であったものの、医療に変革を起こすには十分ではなかった。ゲノムを解釈する上で十分なデータを得るためには、数十万もの人々のゲノム配列を完全かつ正確に決定する必要がある。2007年の時点では、これを現実化するには費用が大きな障壁となっており、技術面もまだ十分ではなかった。しかしながら、新たな配列決定技術の進歩とバイオインフォマティクスおよび機械学習ツールの向上により、3年前にこの状況は変化した。

数万のゲノム配列を決定し、配列データと臨床データおよび表現型データを組み合わせることでヒトゲノムの理解を深めることを目的として、2013年にヒューマン・ロンジェビティ社(HLI)を共同で設立した。講演では、ゲノム科学の初期からこれまでに起きた出来事を紹介するとともに、またチームの目標である医療の改革、すなわち事後対応が基本の現状を事前対応が基本の予防的な体制に変化させることに向けて、我々がどのような努力をしているかをお話しする。

HLIは現在、全ゲノム、表現型および臨床データに関して世界最大かつ最も包括的なデータベースを構築している。同社では、新たな発見を得て疾患の診断および治療に変革をもたらすため、大規模コンピューティングと機械学習を開発して適用している。これらの統合データベースはHLI ナレッジベース(HLI Knowledgebase ™)と呼ばれ、ゲノム科学ベースの薬剤において新たな発見をもたらしうるツールである。現在、同データベースには25,000を超えるゲノム全配列が関連する表現型データとともに登録されており、2020年までに100万件の統合医療記録を登録することを目標として構築が進められている。ナレッジベースにより、製薬会社、保険会社、医療従事者は人々の健康に影響を及ぼして改善できるようになるとともに、非常に複雑であるが対処可能な疾患の一部、例えば、がん、糖尿病、肥満、心疾患、肝疾患、認知症などに対する治療法の開発が促進される。

ヴェンター博士は自身のチームとともに、ヘルス・ニュークリアス(Health Nucleus)と呼ばれる新規のプラットフォームを通じて医療の基本的部分へのゲノム科学の応用を進めている。ヘルス・ニュークリアスは先端技術を擁する自立型の医療センターで、そこではゲノム、マイクロバイオーム、メタボロームの配列決定に加えて、包括的な全身MRIスキャンやその他の従来の臨床検査により、総合的な生物学的評価と健康評価を受けることができる。このユニークな健康評価により、受診者は自分自身やその健康状態について、これまでにないほど深く学ぶ機会を与えられる。また、疾患が予防されるか、進行する前に早期発見されるため、最終的には費用の削減や生命の保護がもたらされる。

ヘルス・ニュークリアスを受診した外見的に健康そうな人々のうち、30~40%で人生に変化をもたらす疾患が発見される。発見される疾患は、脳腫瘍を含めた早期の腫瘍から、動脈瘤、多発性肝嚢胞、多発性嚢胞腎まで多岐にわたる。早期の腫瘍は、隣接組織に浸潤して他の領域に転移する前に完全に治癒させることができる。動脈瘤はいずれも治療が可能であるが、未診断の状態では突然死の原因となりうる。これらはヴェンター博士による多岐にわたる魅力的な講演で紹介される予定の健康問題の例の一部に過ぎず、講演では、詳細なモニタリングと自身に関するデータは少ないより多い方が好ましいということを裏付けるエビデンスを提示する。

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プロフィールProfile

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簡単な履歴

ゲノム研究にもたらした多数の価値ある貢献により、21世紀の指導的科学者の一人とされている。サンディエゴを本拠地とするゲノムベースかつテクノロジー主導の企業であるヒューマン・ロンジェビティ社(HLI)の共同設立者、会長、CEOであり、同社は現在、全ゲノム、表現型および臨床データに関する世界最大かつ最も包括的なデータベースを構築している。HLI社の目標は、ヒトの健康の革新と医療の変革を通じて健康寿命を延長することである。

HLIでの役割に加え、非営利研究機関のJ.クレイグ・ヴェンター研究所(JCVI)の設立者、会長、CEOであり、同研究所は約200名の科学者とスタッフを擁し、ヒト、微生物、植物、人工および環境のゲノム研究とゲノム科学における社会的および倫理的問題の探索に特化して取り組んでいる。

また、合成ゲノム科学技術を用いた製品およびソリューションの開発に焦点を絞った民間企業、シンセティック・ゲノミクス社(SGI)の共同設立者、会長、共同チーフ科学者でもある。

1967年から1968年にかけて米海兵隊員としてベトナムで従軍した後、正式な教育を開始。カリフォルニア大学サンディエゴ校で生化学の学士号と生理学および薬理学の博士号を取得後、ニューヨーク州立大学バッファロー校およびロズウェルパーク癌研究所で教授を歴任した。1984年には米国国立衛生研究所のキャンパスに移り、遺伝子を迅速に発見する革命的な戦略である発現配列タグ(EST)を開発した。1992年には、非営利研究機関のゲノムリサーチ研究所(TIGR、現在はJCVIの一部)を設立し、1995年にはチームとともに、自由生活生物であるインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のゲノム配列を新たに開発した全ゲノムショットガン法を用いて最初に解読した。

1998年には、開発した新たなツールおよび技術を用いてヒトゲノムの配列決定するべく、セレラ・ジェノミクスを設立。そこでの研究成果が2001年2月の「サイエンス」誌でのヒトゲノム配列の発表につながった。また、セレラ社のチームとともに、ショウジョウバエ、マウスおよびラットのゲノム配列も決定した。

現在でもゲノム科学の新たな道をJCVIのチームとともに切り拓いている。これまでに数百のゲノムについて配列決定および解析を行っており、環境ゲノム科学、ヒト二倍体ゲノムの初の完全配列、合成DNAのみで構築された初の自己複製細菌細胞の作成における革新的な進歩など、幅広い領域にわたって重要な論文を多数発表している。

最も頻繁に引用される科学者の一人であり、280報を超える研究論文の著者である。2008年の米国国家科学賞、2002年のガードナー財団国際賞、2001年のパウル エールリヒ・ルートヴィヒ ダルムシュテッター賞、キング・ファイサル国際賞をはじめ、多くの名誉学位、栄誉賞、科学賞を授与されている。米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、米国微生物学会など、多数の権威ある学術団体の会員である。

主な受賞・栄誉等
主な論文・著作等

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