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第3回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム2016.7.9-10
未来への窓 -バイオ・メディカルテクノロジー、数学、美術の眼を通して-(終了)

エマニュエル シャルパンティエ
バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野

エマニュエル シャルパンティエ
(Emmanuelle Charpentier)

マックス・プランク感染生物学研究所 所長
ウメオ大学スウェーデン分子感染医学研究所 教授

専門分野キーワード
微生物学、遺伝学、生化学、細菌性病因、RNA・タンパク質による調節、CRISPR-Cas

講演テーマTitle of Presentation

「遺伝子改変を容易にしたゲノム工学技術CRISPR-Cas9:細菌から学んだ教訓」

RNAによってプログラム可能なCRISPR-Cas9システムは、生命科学の分野に近年登場した遺伝子改変技術であり、これにより標的ゲノムの編集、染色体の標識、遺伝子の調節をより迅速かつ効率的に行うことが可能となった。このシステムでは、エンドヌクレアーゼであるCas9もしくは触媒活性をもたない変異型Cas9をsingle guide RNA(sgRNA)を用いてプログラムすることにより、sgRNAと標的DNAが相補的に結合する領域の近傍に特定の短い塩基配列(Protospacer Adjacent Motif, PAM)があるという条件下であれば、いかなるDNA配列も部位特異的に標的とすることが可能である。このシステムは効率的で汎用性が高い上、容易にプログラムできる。

CRISPR-Casは本来、細菌や古細菌に備わったRNAで媒介される適応免疫のシステムであり、菌が移動性の遺伝物質(ファージやプラスミド)による侵入から自己を防御するために利用されている。一般的には、特定のゲノムを標的とする固有のスペーサーを含んだ短いcrRNA(CRISPR RNA)分子が存在し、その認識部位を有する核酸分子が侵入してくると、CRISPR RNAがガイドとなってCas蛋白が核酸分子に作用し、その維持を困難にする。CRISPR-Casは主に3つの型と、さらに複数の亜型に分類されている。CRISPR-Cas9はII型CRISPR-Casシステムに由来するが、このシステムはcrRNAを成熟させ、侵入DNAを標的とするためにユニークな分子機構を発達させている。私たちの研究チームは、ヒトの病原体である化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)でこのシステムを同定した。crRNAが生合成される段階では、ユニークなCRISPR関連RNAであるtracrRNAが、crRNA前駆体のリピート配列と塩基対を形成してanti-repeat-repeat dual-RNA となり、これがCas9(以前はCsn1と呼ばれていた)の存在下でRNase IIIによって切断される結果、成熟tracrRNAと中間型crRNAが生成される。第2の成熟過程を経て成熟dual-tracrRNA-crRNA が形成されると、これがガイドとなって認識部位を含む標的DNAにエンドヌクレアーゼCas9が導かれることにより、標的DNAが切断されて、外来ゲノムは維持が困難となる。私たちは、生物由来のdual-tracrRNA-crRNAを模倣するsgRNAを使用することで、エンドヌクレアーゼCas9をいかなるDNA配列も部位特異的に標的とするようにプログラム可能であることを明らかにした。そしてこの支配原理に基づき、RNAによりプログラム可能なCas9は、バイオテクノロジー、生物医学および遺伝子治療の領域において生物の三界すべての細胞を編集する上で、汎用性の高い価値あるシステムとなりうると提唱した。ここ2年間で発表された多数の研究によって実証されたように、CRISPR-Cas9によるDNA標的化という手法は迅速かつ幅広く科学界に採り入れられ、ヒト、植物、マウスを含む様々な細胞および組織におけるゲノムの編集やサイレンシングに利用されている。講演では、 CRISPR-Cas9の役割、関与する機序、細菌におけるII型CRISPR-Casの構成要素の進化過程、新しいゲノム工学技術としてのCRISPR-Cas9の応用について考察してゆく。

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プロフィールProfile

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簡単な履歴

フランス、パリのピエール・マリー・キュリー大学で生化学、微生物学、遺伝学を学び、パスツール研究所で実施した研究で微生物学の博士号を取得。続いて、米国のロックフェラー大学、ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンター、スカーボール分子生物医学研究所(いずれもニューヨーク州、ニューヨーク)、セント・ジュード小児研究病院(テネシー州、メンフィス)で研究活動を続けた。その後は欧州に戻り、オーストリア、ウィーン大学のマックス・F・ペルーツ研究所で自らの研究グループを設立。スウェーデンのウメオ大学にてスウェーデン分子感染医学研究所(MIMS、欧州分子生物学研究所[EMBL]の北欧パートナーシップ参加大学の一つ)の准教授に任命され、そこで医学微生物学の教員資格を取得し、現在も客員教授として活動中である。2013~15年には、ドイツ、ブラウンシュヴァイクのヘルムホルツ感染症研究センター感染制御部門の主任とハノーファー医科大学の教授を務めた。2013年には、アレクサンダー・フォン・フンボルト教授職を授与され、2014年から教鞭をとっている。2015年には、ドイツ、マックス・プランク協会の科学会員に選ばれ、ベルリンのマックス・プランク感染生物学研究所の責任者に任命された。

同氏は、病原性細菌による感染および免疫の基礎にある調節機構の研究において世界的な第一人者とみなされている。彼女の研究により、病原性細菌の抗菌薬耐性および病原性をつかさどる経路に関して、いくつかの生産的な発見や洞察が得られている。そして近年、CRISPR-Cas9システムに基づくRNAで媒介される調節機構の分野で革新的な発見をしたことにより、汎用的かつ特異的な新しいゲノム編集技術の発展の基礎を築いた。この新分野は生命科学研究に革命を起こしており、遺伝子治療の分野に全く新しい展開をもたらすことが期待されている。彼女が開拓したこの研究分野は現在めざましいスピードで発展を続けており、ほぼ毎週のように新しい刺激的な知見が報告されている。彼女はこの研究で著名な賞を複数受賞している。

同氏はこのCRISPR-Cas9という技術を構成する将来性の高い知的財産の発見者かつ共同所有者であると同時に、CRISPR治療薬およびERSゲノム学の共同始者として、バイオテクノロジーおよび生物医学におけるCRISPR-Cas9を用いたゲノム工学技術の発展の礎を築いた功労者である。

主な受賞・栄誉等
主な論文・著作等

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