講演テーマTitle of Presentation
「絡み合う物質の中の電気と磁気」
19世紀に完成された電磁気学により、現在、人類は電気エネルギーを自在に使う時代となりました。ファラディーの発見した電磁誘導という現象を利用して、種々の運動エネルギーや光エネルギーを一旦、電気エネルギーという伝送に大変有利な形に変換して、世界の隅々にまで送り届けるというものですが、その基幹技術とそのインフラが普及し始めたのは、高々135年前のことです。私たちの身の回りにはIT機器が満ち溢れていますが、そのトータルな消費電力量は年々増加の一途をたどっています。電気エネルギーを高効率に「創」り、「送」り、「蓄」え、そして「省」くことが強く求められる所以です。これは持続可能な社会の構築に向けて、人類が今後、百年、二百年をかけても解決に取り組むべき科学と技術の課題と言えます。
電気と磁気の舞台を固体、材料系に移せば、そこは電子集団が強く絡み合う世界です。個々の電子の運動は量子力学でよく記述されますが、それが集団として創発する性質(物性)を理解し、希求するには、高い次元での新たな概念が必要となります。そこでは、強く相関した電子集団を利用して、また電子集団の形成するトポロジーの概念を活用して、電気と磁気との相互の制御が可能となります。例えば、磁場をかけると、電気の流れない絶縁体が突然金属に変わったり、電場をかけると、磁石としての性質が現れたりするものです。これは、ちょうど氷が水に変わるように、電子の集団が相転移を起こすためです。このような固体の強相関電子集団を介在させて、エネルギ―を高効率に変換し、そして情報操作のためのエネルギー消費を極限まで削減する機能を目指して、固体の中の新しい電磁気学が実現する夢を考えます。
プロフィールProfile
- ホームページ URL
- http://www.cmr.t.u-tokyo.ac.jp/
- http://www.cems.riken.jp/jp/
- 簡単な履歴
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1976年 3月 東京大学工学部物理工学科 卒業 1981年 3月 東京大学・大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程修了 工博 1981年 4月 東京大学・工学部物理工学科 助手 1984年 8月 東京大学・工学部物理工学科 講師 1986年 7月 東京大学・理学部物理学科 助教授 1993年 7月–
2002年 3月工業技術院・産業技術融合領域研究所・アトムテクノロジー研究体 グループリーダー 1994年 1月 東京大学・大学院理学系研究科物理学専攻 教授 1995年 4月– 現在 東京大学・大学院工学系研究科物理工学専攻 教授
(2013年4月より併任)2001年 4月–
2008年 3月産業技術総合研究所 強相関電子技術研究センター長(併任) 2001年 10月–
2006年 9月科学技術振興機構 創造科学技術推進事業 「スピン超構造」プロジェクト総括責任者(併任) 2006年 10月–
2012年 3月科学技術振興機構 創造科学技術推進事業 「マルチフェロイックス」プロジェクト 統括責任者(併任) 2007年 9月–
2013年 3月理化学研究所 交差相関物性科学研究グループ グループディレクター(併任) 2008年 4月–
現在産業技術総合研究所 フェロー(併任) 2013年 4月–
現在理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長 - 主な受賞・栄誉等
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1990年 仁科記念賞:「電子型高温超伝導体の発見」 1991年 Bernd Matthias Prize:「高温超伝導体の普遍性の実証」 1998年 日産科学賞:「酸化物巨大磁気抵抗の発見と機構」 2002年 朝日賞:「強相関電子物質の研究」 2003年 紫綬褒章:「物性物理学研究功績」 2005年 James C. McGroddy Prize for New Materials:「新しいスピン電荷秩序をもつ遷移金属酸化物の創製」 2011年 藤原賞 受賞:「物質中の巨大な電気磁気応答の創成」 2012年 IUPAP Magnetism Award and Néel Medal:「磁気科学への顕著な貢献」 2013年 恩賜賞・日本学士院賞:「強相関電子材料の物性研究」 2014年 本多記念賞:「遷移金属酸化物における強相関電子機能の開拓」 - 主な論文・著作等
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J.B. Torrance, Y. Tokura, A.I. Nazzal, A. Bezinge, T.C. Huang, and S.S.P. Parkin: “Anomalous disappearance of high-Tc superconductivity at high hole concentration in metallic La1-xSrxCuO4”, Phys. Rev. Lett. 61, 1127 (1988).
Y. Tokura, H. Takagi, and S. Uchida: “A superconducting copper-oxide compound with electrons as the charge-carriers”, Nature 337, 345 (1989).
Urushibara, Y. Moritomo, T. Arima, A. Asamitsu, G.Kido, and Y. Tokura: “Insulator-metal transition and giant magnetoresistance in La1-xSrxMnO3”, Phys. Rev. B 51, 14103 (1995).
Y. Moritomo, A. Asamitsu, H. Kuwahara, and Y. Tokura: “Giant magnetoresistance of manganese oxides with a layered perovskite structure”, Nature 380, 141 (1996).
Asamitsu, Y. Tomioka, H. Kuwahara, and Y. Tokura: “Current switching of resistive states in magnetoresistive manganites”, Nature 388, 50 (1997).
K.L. Kobayashi, T. Kimura, H. Sawada, K. Terakura, and Y. Tokura: “Room-temperature magnetoresistance in an oxide material with an ordered double-perovskite structure”, Nature 395, 677 (1998).
T. Kimura, T. Goto, H. Shintani, K. Ishizaka, T. Arima, and Y. Tokura: “Magnetic control of ferroelectric polarization”, Nature 426, 55 (2003).
S. Ishiwata, Y. Taguchi, H. Murakawa, Y. Onose, Y. Tokura: “Low-Magnetic-Field Control of Electric Polarization Vector in a Helimagnet”, Science 319, 1643-1646 (2008).
X.Z. Yu, Y. Onose, N. Kanazawa, J. H. Park, J. H. Han, Y. Matsui, N. Nagaosa and Y. Tokura: “Real-space observation of a two-dimensional skyrmion crystal”, Nature 465, 901-904 (2010).
S. Seki, X.Y. Yu, S. Ishiwata and Y. Tokura: ” Observation of Skyrmions in a Multiferroic Material “, Science 336 198-201 (2012).